700m流される 苦しむ姿を忘れられない

ことし5月、山形県舟形町で当時3歳の男の子が用水路に転落し流されました。
田植えの準備をする父親と一緒に田んぼに向かい、近くに止めてあった軽トラックの周辺でひとりで遊んでいたときに起きた事故でした。
隣の田んぼで農作業をしていた長沼亮介さん(33)は、男の子がいなくなっていることに気付き大声で叫んですぐに父親に知らせました。
「用水路の隣に車があって近くで遊んでいたのを見ていたので、すぐ流されてしまったと思った」
用水路は幅70センチ、当時の水深は60センチ。
田植え前の時期で水の量が多く、流れも速くなっていました。
曲がりくねった箇所や狭い暗きょも多くありますが、男の子はおよそ700メートルにわたって流されました。
ちょうど丁字路になっている場所で止まったところを父親が発見。
病院に搬送され、幸い一命を取り留めました。
長沼亮介さん
「男の子は顔も体も傷だらけで、大量の水を飲んでおなかも腫れ、うめきながらとても苦しそうにしていました。その姿は、いまだに忘れられません」

子どもから絶対に目を離さない

長沼さんは、男の子の姿が見えないことにいち早く気付いて、迅速な救助につなげたとして、事故の半月後、地元の警察署から表彰されました。
長沼亮介さん
「用水路は見慣れた光景の中にあり、今まで意識したことはありませんでしたが、大きく意識が変わりました。特に子どもにとっては、とても危険でみんなで目を配って、絶対に目を離さない状況を作ることが、何よりも大切だと思います」

対策求める声相次ぐ

NHKでは用水路事故の危険性や被害の実態について、テレビやネットでお伝えしてきました。
子どもの事故を防ぐための対策を求める声が上がっています。
富山県の女性
“家のすぐ横に細くて深い用水路があります。わが家も含め、近所には幼い子どもがたくさんいるので、いつ転落事故が起きても、おかしくはありません”
群馬県の女性
“息子が狭い通学路で自転車に乗っていたところ、車とすれ違おうとしてバランスを崩し、用水路に転落しました。子どもの安全を考えたまちづくりをしてほしい”

町内会が独自に対策 “子どもの安全を守りたい”

こうした子どもの事故を防ごうと、用水路事故が多い富山県では、住民みずから用水路の対策に取り組んでいる地域もあります。
富山市布瀬町南では5年ほど前、下校中の小学生が車をよけようとして、柵のない場所から用水路に転落しました。大事には至りませんでしたが、町内会長を長年務めた高森健治さんは、同じような事故が再び起きるのではないかと強い危機感を持ちました。
「通学路のすぐ横が用水路で、うろうろしたり、よそ見をして歩いたりする子どももいて本当にひやひやします」
子どもを守る対策が必要だと感じた高森さんは、行政に要望するよう地元の自治振興会に訴えました。
しかし、地域で見慣れた用水路の危険性は共有されず、行政にも要望が伝わることはありませんでした。
そこで自分たちができる対策だけでも行いたいと、町内会費からおよそ7万円を捻出して看板を12枚設置。みずから通学路に立って、子どもたちに直接注意を呼びかける活動を続けています。
高森健治さん
「せめて看板だけでも掲げて注意を促そうと思い設置しました。子どもは宝、財産です。子どもを安全に守り事故がない町にしたい」

子どもはなぜ危険?

水難事故に詳しい長岡技術科学大学大学院の斎藤秀俊教授は、子どもの事故の危険性について2つの点を指摘します。
(1)危険性を認識できない
子どもは好奇心が旺盛で、危険だと思わず、水遊びをしているときなどに転落してしまうことがある。

(2)体重が軽く力も弱い
子どもは大人に比べて体重が軽いため、転落すると流されやすい。
ふんばろうとしても手や足の力が弱いため流れに抵抗できず、抜け出すことが難しくなる。

交通事故と同じようにリスクを認識する必要

子どもならではの事故のリスク。防いでいくためには、赤ちゃんから中学生まで年齢層に合わせた対策が必要です。

たとえば、幼稚園児くらいまでは自分で危険性を判断するのが特に難しく、家のすぐ近くを動き回ることが多いため、一緒に暮らす保護者などが絶対に目を離さないことが何よりも重要です。
一方、小学生以上になると自分で歩いて学校に通ったり放課後に友達と遊びに行ったりするなど行動範囲が広がります。
通学路の危険な場所を抽出して、重点的に柵やふたを設置するなど、ハード対策を進めることが有効です。
危険箇所が多い場合には通学路を見直し、可能ならば用水路を避けたルートを新たに考えることも必要です。

さらに、多額の費用をかけずにできる対策もあります。
小学校で用水路の危険性を教える安全教育や、用水路の危険箇所を「ヒヤリマップ」としてまとめるなど、子どもたちに危険性を認識してもらうことが重要です。

交通事故と同じように、子どもにとって用水路事故は、大きなリスクがあることを、私たち大人が認識することから始めなければならないと思います。